~設立後に求められる法的・実務的なポイント~
医療法人は、医療提供体制の安定と継続を支えるために設けられた制度であり、公益性・非営利性をその本質としています。設立時の手続きばかりが注目されがちですが、実際には、設立後の組織運営や役員構成の適正管理が非常に重要です。 以下では、医療法人の健全な運営のために知っておくべき法的要件と実務上の注意点を整理してお伝えします。
■ 医療法人の組織要件
医療法人は、法人格を有する組織体であり、個人診療所とは異なり、一定の組織構成が法令で定められています。
【図表1】医療法人の基本構成(医療法に基づく)
役職 必要人数 備考
社員 3名以上※1 最高意思決定機関を構成する(社員総会)
理事 原則3名以上 ただし診療所1か所のみの場合は2名で可※2
理事長 1名※3 医師または歯科医師に限る(法人代表)
監事 1名以上 理事・職員と兼職不可。財務の監査を行う
これらはすべて医療法に基づく全国共通の要件です。役員(理事長、理事及び監事)に欠員が生じた場合は速やかに補充を行い社員総会で選出してください、ただし、理事長の選出は理事会にて選出します。これら理事が異動する場合については役員変更届の提出が求められます。
社員の変更については社員名簿を更新します。
※1 医療法上、社員数は定められていませんが、多くの自治体で3名以上であることを求めております。
※2 医療法上都道府県の許可があれば2名でも認められますが、認めていない都道県もあります。
※3 理事うち1名が選出されます。
■ 社員とは? ~社員と従業員の違い~
医療法人における「社員」とは、法人の重要事項を決定する「社員総会」に参加する最高意思決定機関の構成員で、従業員とは医療法人と雇用関係にある人たちです。
【図表2】社員と従業員は違います。
区分 社員 従業員
意思決定権 あり(社員総会で議決) なし
任期 なし(社員総会の議決が必要) 就業規則等による
法的位置付け 医療法上の法人構成員 雇用契約上の労働者
社員は法人運営における根幹的存在です。従業員が就任する事も出来ますが、役割と責任は明確に異なります。
■ 理事・理事長の役割
理事は法人の業務執行を担い、理事長はその代表者です。
- 理事会は法人の運営方針を決定し、理事が業務を執行します。その為、法人所在地より遠方に居住している場合、本当に法人運営に参画できるのか?誓約書など書かされる場合があります。
- 理事長は対外的な法人代表として登記されます。
- 開設する診療所の管理者は必ず理事に加えなければなりません(医療法上の義務)。
■ 監事の役割と選任の注意点
監事は、法人の財務・業務の監査を担い、毎年の監査報告を提出します。
【図表3】監事に求められる条件
項目 内容
人数 1名以上
兼職の可否 理事との兼職は禁止
選任の注意点 名義貸しは不可、実務能力が必要
■ 法定手続きと届出の義務
医療法人には定期的な行政手続きの義務があります。怠ると定款変更の申請を行う際にまとめて報告を求められ、認可が大幅に遅れたり、忘れた頃に全部出してくださいと指導を受けたりします。
さらに怖いのは、理事長の重任登記を怠った場合です。定款変更が必要な際に、法人の登記簿謄本も必要になり、重任登記や資産の登記がなされていないと指導を受けます。慌てて登記することになるのですが、重任登記は変更発生後二週間以内に、資産登記は会計期間が終了より三ヶ月以内に登記しないと20万円以下の過料即ち、刑罰ではありませんが、金銭の支払いを命じられます。5万円くらいの支払いを求められたと聞いたことがあります。定期報告は法で定められている義務なので、医療法人として適切に履行しましょう。
【図表4】主な届出と提出頻度
届出内容 提出頻度 備考
役員変更届(重任) 2年ごと 理事・監事の再任の為届出
(理事長の重任は法務局へ登記も必要)
事業報告書(決算) 毎年 経営状況や財務内容の報告
(年度末の資産を法務局へ登記)
経営状況報告 毎年 医療法人の経営状況を報告(分院ごと)
■ まとめ:運営の安定は「適正な人選」と「継続的な管理」から
医療法人運営は、適切な人材の選任と定期的な手続きを怠らない管理体制がカギとなります。
- 社員の構成は長期的に見て慎重に
- 役員・監事は形式的でなく実務に耐える体制を
- 届出・報告は「止めない・漏らさない」こと
設立時だけでなく、継続的な法的メンテナンスこそが、医療法人の信頼と安定経営を支えます。
ご不明点や現在の体制への不安がある場合は、専門家のサポートを受けることをお勧めします。届出の代行は法律で行政書士が行う事と定められております。当事務所では、医療法人の定期的なお手続き、運営支援を行っております。お気軽にご相談ください。
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